東京高等裁判所 昭和27年(う)3605号 判決
被告人 原野政治
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
(一) 原判決は被告人が平和貯蓄殖産無尽株式会社千葉支店銚子支部に外務員をしており、同会社の日掛無尽の掛金の取立並保管の業務に従事していたものとし、右業務上保管中の金員横領の事実を判示するに当つて日掛無尽契約加入者別に分類し、原判示第一乃至第三十六の業務横領罪が成立するものかの如くに判示した観がないではないが、その法律適用については単に業務横領罪の刑法第二百五十三条を適用しただけで同法第四十五条等併合罪の規定を適用していないことは所論のとおりである。しかしながら原判決をよくみると必ずしも併合罪に該る多数の業務横領の事実を判示したものと断ずることはできない。そのわけは被告人が判示会社の外務員として無尽契約加入者から毎日百円、二百円という金を集金していたことは明らかであつて、このような集金方法である以上被告人は毎日集金した金員を一括して保管はしても、集めた金を各契約者毎に別けて保管していたと認めることはできないし、記録に徴しても被告人が叙上の如き契約者別の保管方法を採つていたと認めるべき証拠はない。してみれば、原判決が第一乃至第三十六の横領行為に分けて判示したのも、実質的には、毎日被告人が集金の上保管していた金員を会社に納入しないでおり、昭和二十五年五月下旬より同年十月上旬までの間に於て右金員の中合計二十三万七千四百円を自己の生活費に費消横領したと判示したのと同一にみることができるのであり、原判決が各契約者毎に横領金額を分けたのは被告人が会社に納入しなかつた分か、どの契約者から集金したものを会社に納入しなかつたかを帳簿上明確になし得る点に着眼して判示しただけの事であつて必ずしも多数の横領行為の成立する旨判示したというべきではないからである。而して右説明のように同一被害者の所有にかゝる金員を継続的に横領した事実が認められる以上は原判決の如く単一の業務横領罪が成立するものとして刑法第二百五十三条を適用し併合罪の規定を適用しなくても不当といえないのみならず、所論は現判示の事実に対し併合罪を以て処断すべき旨主張する点に於て被告人に不利益な論旨であるから採用することはできない。
註 本件原判決の犯罪事実の判示及び法律の適用は左の通りである。
一、犯罪事実
被告人は東京都中央区銀座三丁目三番地平和貯蓄殖産無尽株式会社千葉支店銚子支部外務員として同会社日掛無尽掛金の取立並に保管の業務に従事中
第一、昭和二十五年六月二十四、五の両日及び同年九月一日より同年十月二日迄の間三十二回に亘り銚子市末広町四ノ二四七番地松ケ谷正一郎より取立て前記業務上自己保管に係る同会社所有の金三千二百円を納入せずその頃銚子市末広町三ノ二三三番地の二の自宅に於て擅に自己の生活費に費消横領し
第二、同年八月十日より同年十月二日までの間(但し八月三十一日を除く)五十三回に亘り前同所前同人より取立て前記業務上自己保管に係る同会社所有の金五千三百円を納入せずその頃前記自宅に於て擅に自己の生活費に費消横領し(中略)
第三五、同年六月二十一日より同年十月四日までの間(但し七、八月の三十一日を除く)百四回に亘り同市妙見町一丁目一四六五番地沼田充子より取立て前記業務上自己保管に係る同会社所有の金一万四百円を納入せずその頃前記自宅に於て擅に自己の生活費に費消横領し
第三六、同年九月十七日より同年十月二十日までの間三十四回に亘り同市新生二丁目九五番地遠藤秀子より取立て前記業務上自己保管に係る同会社所有の金千七百円を納入せずその頃前記自宅に於て擅に自己の生活費に費消横領したものである。
一、適用法条
刑法第二百五十三条、刑事訴訟法第百八十一条第一項